81.王様


まずい。
 
そう思った。また私は失敗した。
溜息も舌打ちも無いけれど、きっと、絶対不機嫌な顔をしている。
 
「なんで、下向いてんの」
ぴくっ
駄目だ。つい、手が動いてしまった。
持っていたポテトがあらぬ方角へ飛んでいく。
「・・・何、そんなびくつくような事してる訳?俺」
滅相もございません、なんて言ったら益々状況は最悪に向かってしまう。
いい科白を考えてるうちに、いつしか沈黙が降りてきて
 
溜息、吐かれてしまった。
 
「さらに下向くなって」
ひぇ。
 
やっぱりやめておけばよかった、かもしれない。
一目で好きになって、でも私は地味だし、釣り合わないだろうから
片想いでいいって、そう思ってたのに。
何で言ってしまったんだろう。
何でこの人は事も無げに『別にいいよ』なんて言ったんだろう。
 
「なんで・・」
「ん?」
やばっ。無意識に口から出てた。
「あ、いや、なんでフレッシュネスなのかなーと思って」
慌てて、適当なことを口にする。
学校の近くにはマックがあるし、駅前にはロッテリアもあるのに
わざわざ、道を反れて着いた先はフレッシュネスバーガーだった。
「あー、それは」
指先で摘んでる揚げ物。
「オニオンリング好きなの?」
「・・・まーね」
 
 
「で。言いたいことあるなら言えば?」 
 
あう。
 
唇を噛む。
言えるんなら苦労なんてしない。
思ってるくせに言わなくて、イライラさせてるのは分かる。
だって、何で私なんかと付き合うの?なんて聞けっこない。
でも、それが気になってて、居心地の悪い思いをさせてしまう原因で
 
(悪いのは私だ・・・)
 
喉から引き絞るように声を出す。
「なんでもない、・・ごめん」
「あっそ」
うう、興味なさそうな返事。
なんでいちいちこんな事に傷つくんだろ。
勝手に、いっこいっこにショック受けたり、怯えたり
そんなのはいい迷惑じゃん。。
 
「・・・王様だったら、よかったのに」
自分でも変なこと言ってるって思う。 
「は?」
でも、それなら。いっそ楽なのに。
最初っから手の届かない雲の上に居てくれればいい。
一緒に居ても、好きなように振舞っていて欲しい。
 
「つか、意味わかんねー。んじゃアンタは何ならいいの」
「えっ」
言い出しておきながら、降りかかってくるとは思わず
びっくりする。
 
「オイ、訳分からん設定は俺だけなのか」
 
「あ、いや、えーーっと。私は・・平民?」
おそるおそる口にした言葉に、眉を顰められ明らかな疑問符を浮かべられた。
(ああ、やっぱこんな変な事言うんじゃなかった・・・)
自己嫌悪の海にどっぷり沈みそうだ。
 
「・・・・それは何してもいいってこと、ってとっちゃうけど」
ぬっと伸びてきた手を見て、ぽかんとする。
 
!!!
 
「あっ、いやっ、あのっ・・・ちょっと、それは・・・」
矢のような速さで身を引いた。 
「ちっ、いつもは鈍臭いくせに早いな・・」
「スイマセン。。。」
「んだよ、我儘なへーみんだな」
うっ。苦しい・・
アタマを抱え込もうとしたら、その前にぽんっと何かが当たる。
分厚い手だ。
「ま、いーや。面白いし」
 
こっそり覗き見たら、にやにやしてて、不機嫌ではなさそう
なので、こっそり胸を撫で下ろす。
 
「・・・あのさ、んでアンタは結局何したいの?」
 
ううっ。
 
やっぱ王様だったらよかったのに。
ばれないように吐いた溜息は、やっぱりバレて
デコピンを喰らう。 
「あー、ケチャップついちゃった」
 
 
ぐすん。 
 
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高校生ぐらいのできたてカップル。ぎぐしゃくです。
ごちゃごちゃ言ってますが、どうでもよい話です。
彼氏はきっとAB型。
平井堅を聴いてたらなんとなく、こんな話が出てきました。