84.なかったことにして

(同性愛的表現があります。ヌルいですがキライな方は戻ってください。)



























イケナイことがしたかった。











がっくりと落ち込んだテストをはらりと捨てる。
母さんが溜息をつiいたのは顔を見なくたって分かった。
「来年は高校受験なのよ」
なーんて、したり顔。
「一体誰に似たのかしら」
お前に似たんじゃねえのかよ、って言ってやればすっきりしてたのに。
手を強く握りしてて、そのまま家を出た。

空気が纏わりつく。
汚いものでもみるような、蔑んだ目に吐き気を催す。
目の下の皺が蠢くようで気持ちが悪かった。

勉強だってスポーツだって出来なくて
それじゃあ生きてる価値は無い?

そう産んだのはアンタだろ?

俺はアンタにグロテスクなほどそっくりだよ?

小さな肩も、考えなしで動くところも、感情が昂ぶるとヒステリーがとまらなくなるのだって、そうだろう。

目頭がじわりと熱くなる。
こんな風に泣き出しやすいのさえ、母親と自分が重なるようでうんざりする。

外は真っ暗だったので、闇に蕩けていくようで
気持ちが良かった。
適当にふらふらしたら戻るつもりだった。
でもなかなかそんな気にならなくて、まだ家路に足は向かない。



「長谷川?」

最悪だ。
ぼやけた電灯の先に見知った顔が居る。
無視して通り過ぎる。
「おい、何だよ。お前最近塾来ないじゃないか」
同じ塾の同級生。俺と違って優秀で背も高い杉野。
コンプレックスが刺激されるようで好きじゃない。

「長谷川、・・お前泣いてるのか?」

それにひどく鬱陶しい。
何かにつけてコイツは俺に声を掛けてくる。
俺はこいつに親切にしたことなんてないのに。
出来の悪い、駄目な俺に同情してくれてんのか?
ありがとう。メイワクだ。

「待てよ」

無視し付けて歩く。
ほおって置いてくれ、頼むから。

「待てって!!」

腕を掴まれた。
「触るなっ!」
弾けるように叫ぶ。
掴まれた腕を振り解くように、振り払おうとするのに
力が強くて外れない。
「どうしたんだよ?」
どうだっていいだろう。
何で理由をお前に話さなきゃいけないんだよ?
解けない腕に耐えられない。そんなに力の弱い俺が面白いか?

くそっ

止まりかけた涙がまた零れる。
ぽたり、と頬を伝う、弱さの証明。畜生。


その涙を杉野は拭った。
そして、抱きしめられる。

は?

「離せって・・おい」
泣いていたことも忘れ、腕を突っ張るがうまく離れない。
くそ

「長谷川」
名前を呼ばれて、抱く腕の強さが強まる。


びりびりっと電流が走る。
キモチワリィ、キモイキモイキモイ


腕にこめられた力に感情にびくっとする。

「長谷川、俺 お前が・・」

熱の篭った、粘っこい声。
信じられない。
その先の言葉を予想して、頭がくらっとした。
熱っぽい声は明らかに色を含んでいる。
背中に嫌な汗が落ちた。ぬるい感触がひどく不快だ。

俺、チビでガリだけど、男だぜ?
ついてるもんついてる奴に、何?

そんなに俺が弱く見えるのか?女の変わりになるみたいに。
馬鹿にされてるのか。

俺、俺の母さんと瓜二つなんだぜ?
じゃあ、お前俺の母さんともヤれるのかもな。
すっげえ、俺絶対無理。

哂った。自分では口の端が歪んでいるのは見えないけど
多分そういう形になってる。


虫がぶんぶん飛んでいる。
ぽかんと口が開いてたせいで羽虫が口の中に入った。

キモチワリィ。虫もコイツも。


「悪い!」
力強く腕が俺を突き放した。
顔が真っ赤になってる。
うげマジかよ。ありえねえ。
俺の予想は当たっちまったよ。


ぱちん。
何かが弾けるような音がした。
多分、癇癪とかそんなモノ。



舌を出して指で羽虫を取った。
「口ん中虫が入った」
赤い舌をわざと見せつけようと思ったからかもしれない。


予想通り
力いっぱい引き寄せられる。

がっつくように、近づく杉野に喰われる、と思った。
うわ、きもちわりー。
舐めんなよ。
口内を生暖かいもので掻き回される。



キモチワルイ 



我に返ったように杉野が体を離す。
「・・・ごめん、長谷川」
居た堪れないような目をした。
ああ、そうだろうな。力に任せて、
抵抗できない弱い俺に力づくでこんなことを。


「なかったことにしてやるよ」



一言呟いて、踵を返す。

むしゃくしゃしてただけ。
杉野の気配が消えたのを確認して、甲で唇を拭う。

イケナイことがしてみたかっただけ。







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最低話。
たまにはこういうのも書いてみるのも面白いかな、と思って・・
気持ち悪かったらすいません。
中学生って感情が揺れ揺れな時期だと思うので
揺れのはずみ、みたいな。