・発芽・





そもそもの始まりはいつだったのか。
僕は運命を呪う・・・かもしれない。



自分が悪い、そんなことは分かってる。でも
頼まれたら・・・、困ってたし。
いつもの安請け合い??だったような・・。

「いいですよ、椿ちゃんなら。よく知ってるし」
これが僕の不幸の始まり。
「悪いね、一人で残していくのは不安でね。かと言ってあっちは治安が悪いし・・」
「お察しします」
「ありがとう」
「僕も叔父さんにはお世話になりましたし・・」
確かに、その通り。母さんが他界してからというものさんざん援助してくれて
大学にだって通い続けることができた。
銀行のお偉いさんまで上り詰めた叔父が口を利いてくれたお陰で今の職場にもありつけた。
「すまないね。生活費はもちろん入れるし、ここの家賃も私が持とう」

いつだって罠ってやつは甘い香りで誘うんだ。



「遅刻するぞ!おい!起きろってば」
日課。いつものこと。一匹の芋虫を揺らし目覚めさせる。
「おはよ〜ねむぅい」
むくりと起き上がると記憶形状合金のごとくすぐ原状回復を果たしやがった。
「起きて早々何言ってんの。ホラさっさと着替えろって」
「う〜〜ん」
まぶたを擦りつつ、やっとのことで動き出す。
もそもそとなんとも緩慢な動きでパジャマを脱ぎ

ぎくっ

「朝ご飯出来てるから!」
バタンッ
声だけを残して飛び出す。
「・・・・ちぇ、やっぱ無理か」
?なんだよ、まったく!

やばい、やばい、やばい。
あああああ、このままでは明らかに変態街道一直線だ。
何でだろう、ついこないだまで全然、完璧に、子供だったと記憶している。
ここに来たばっっかりの3年前は確かに丸っきり子供だった。
いや、今でもコドモだ。うん。間違いないに決まっているはず!
中学生なんて、どっからどう見て・・


見なくていい!!!
落ち着け・・はぁ。20歳になったら大人なんて誰が決めたんだか。
23歳なんてどっちかってとまだ・・・ゴホン。ガキと同じだ。

「きょーちゃん〜、やっぱ遅刻しそう」
・・・・そうですか。
「早く支度しろ。送ってくから!」
ジーザス。
あ、うち仏教だった。ごめん母さん。
こっそりと仏壇に手を合わせる。

ちーーーん。






「発進するよ」
赤から青へと信号はGOサインを出した。アクセルを踏み込む。
「えええっ」
異常なほど真剣にマスカラを塗ったくっている手がグラグラ揺れた。
「滲んじゃった〜」
絶望と悲嘆の入り混じった声をあげる。
「あのさ、まだ若いんだから化粧なんてさ」
「きょーちゃんっオヤジ臭いこと言わないでよ」
ざっくり。
「見て、このほうが可愛いでしょ?」
「・・・・着いたよ」
ため息を付きつつ 言い放つ。
「ちぇ、つまんないの。あ!送ってくれてありがとう」
そんな僕の気を知らずに君はふわふわ笑う。
告げてないから気づくわけもなく。
「・・・・言えますかっての」

胃が痛い。
まあ、何ですか。
君がにこにこ笑って幸せならば僕は構わない。
強がりだけど、うそではないよ。あとは・・・せめて2年待たないと、か。
厳しい。
風は冷たさを増してきた。
今から冬だってのに蕾がむくむくと膨らんで、あっという間に花が咲く。

「!!自分が遅刻だ〜〜」

   (完)


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    ラブコメっぽい話を書きたくて書いたような・・・若干修正・・・かけました。