真夏の片付けられない女




「ああ・面倒くさぁあい・・」
見下ろしながら女は呟いた。

バスルームの床は冷たくて気持ちがいい。
とは言えいつまでもここに居るわけにはいかない。

「・・・・うーん、と」
腕を上げると関節が音を立てた。
「これ肩凝るよ・・絶対・・マッサージ行きたい・・・・その前に電気代・・・」
パチパチと押しても押しても点かなくなった蛍光灯を虚ろな目で見あげた。
暑さと気だるさに眩暈を覚え、溜息を付く。
「駄目だぁ・・・」
ものすごく暑いと、寝苦しいと分かっていても眠気が醒めない。
むしろ体は睡魔に捕らえられていく一方だ。
悪夢を見ると分かっていても抗うのは性に合わない。
誘惑に負け、さっさとベッドに身を沈めた。布団から汗の匂いが立ち込める・・・






  引っ張られる。
  うるさい・・・
  ああ、もう来ないでよ


  うるさいんだってば・・・
  もう、いいじゃない

  ああああああああああああああああああああああああああああああ
  面倒臭い!!!!!!!!!!!





「ひっ!」
目を覚ますと汗とともに呼吸がどっと溢れ出た。
「はぁ・・・」
水が飲みたい、体がそう要求してくる。
足の踏み場も無い床に足で床弄り探し、立ち上がる。そもそも暗くて何も見えない。
ぺきっ
「何か踏んだ・・・げっ博のメガネじゃん」
んーというような考え込む姿勢を作る。
「あ、そっか。いいんだ別に」
朦朧とした頭で適当に納得する。

ぺったんぺったんと歩き狭い部屋を出た。
狭いキッチンはカップめんの残骸と飲みかけのペットボトル、切りかけの缶と缶きり
食器であったもの・・・そんなもので溢れていた。
コップを探したが見当たらない。さっさと諦め蛇口をひねりそのまま口を近づける。
喉を鳴らして水を飲んだ。
目の前をショウジョウバエが二匹弧を書いて飛んでいる。
舌打ちををしてバスルームのドアを蹴飛ばし開けた。

「もーアンタが別れてくれなくて、もっと面倒なことになっちゃったじゃない〜」
罵りながら、本当に嫌そうに女はソレを眺めた。

バスタブに横たわる男の死体。
明日には腐るであろう残骸。
片付け無ければならいない大きな大きな粗大ゴミ

「あああ、面倒くさい・・・重くて持ち上がらないし」
それは女の口癖。
何かにつけて紡がれる言葉。













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