捕らわれの身の上。



 


いや!
 
いやよ。絶対いやだわ。
 
何処に行くの?
 
私から逃げるの?どうして?
 
いやよ。いやって言ってるじゃない。
 
許す訳ないわ。
貴方私だけのものだって、膝をついて誓ったじゃないの!!!
 
 

「・・・・・・すいませんでした」

力なく呟く、虚空に向けて。
ぱかっと目を開けると、そこはいつものねぐらで、自分の裾を引っ張り
怒鳴りつける細い腕は当然ない。
「夢か、だよなあ」
目の前にはボロい頑丈な格子。
 
はぁっと溜息をつく。
「ん?」
ふと、格子の外に目をやると、こっちをじーーーーっと見るガキが一匹。
「なんだ、千寿。起きてたのか?子の刻だぞ」
眉根を顰めてこっちを心配そうに眺めている。何だ?
おそるおそるといった風情で、口をもごつかせる。
「さゆりさまって誰・・・?」
 
!!!!!!
 
「えっ、は?あ、えっ、え〜〜〜!?」
「さっき、おゆるしください菖蒲さまってずっと言ってから」
!!!!!
思わず口を押さえる。今更なのだが。
「怖いゆめ・・・?大丈夫か・・?」
耳が赤くなっている、ような、気がする。
アホか、俺は。
「ああ、怖い夢・・」
言いかけてぞわりと殺気を感じた。いや、聞こえるはずはない。
何年前に死んだと思ってるんだ。
そう、己に言い聞かせるが口からでた科白は別物に掏り替える。
「なんかじゃなくて、えー昔世話になった方の夢を、ちょっと」
しどろもどろになる口に頭を抱えたい。
が、千寿はそんなことは微塵も気にした様子はなく
ほっとしたように息を吐いた。
「そうか、良かった」
そう言うと寝藁にこてん、と突っ伏して
すぐ寝息が聞こえた。
 
顔が緩むのに気がついて口元を正す。
「同じ人間でもえらい違いだぁな」
すぅすぅ寝息を立て始める子どもの上下する腹を見て
ほっとする自分に苦笑した。
 
己を縛める格子にそっと指を伸ばす。
「たしかにあの時、永遠にあなたのものでいいと思ったんだ」
 
じゃあ、今は?
 
強い視線、はっきりした声、ぴんとした姿勢。
長く美しい髪に高価な着物を纏った女。
どれをとっても全く千寿とは異なる風貌の女が眼前に見えた気がした。
 
じゃあ、今は・・・
 
「今も、あなたのものでいいですよ」
 
そう呟いて、目を閉じた。
 
 
 
 
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狐さん視点で。彼はとてもへたれです。
この先はこんな感じでだらだら書いていければと。

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