第十一話 悩める獣    


*
がちゃがちゃと音を立てて皿を洗う。
かちゃかちゃ
ざーーーーっ
かちゃかちゃ

一定のリズムで繰り返される音。
一枚一枚
白くなる皿を見ると満足そうに笑い、時折鼻歌を混ぜ
また次の更に手を伸ばす。

「・・・・・」
魔獣はその光景を眺めていた。
「?どうかしたのかい?」
背後の気配に話しかける。
「楽しそウだナ」
「ああ。皿を磨くのは好きなん・・」
ひゅんっ
「ひわぉ」
変な悲鳴をあげ、背後からの拳撃をのけぞるように避ける。
「・・チ」
「えー?あ、え」
スポンジが空を舞いぺしゃり、と音をたて床に落ちた。
「言エ」
拳を眼前で止める。
「だから、殺す気だったら全然やられてるんだよ〜ってば」
瞳が妖しく光る。
「いや、殺す気にならなくてもいいから」
ひやりとするような殺気を、両の手を降参のポーズでなだめる。
魔獣を一瞥し、ちょっと待ってと制する。
流れっぱなしの蛇口に手を寄せ手に付いた泡を流す。
「ある程度はね、動きは読めるんだよ」
「?」
「君には意表を付く行動が無い、ように私には見える。
 何も考えず、反射で動いているだろう?」
ぽかん、と大きく魔獣は口を開けていた。
「たぶん狩猟をして生計を立てているのかな」
仮定で話してはいるが、ほぼ確信に近い口ぶりで神父は続ける。
「君の動きは野生動物の狩りそのままだよ。直線的に相手の急所に攻撃を放つ。
 それはとても綺麗だけど、訓練されている者にとっては割りと避けやすいんだ。
 君の場合圧倒的にスピードが速いから、まあ避けられたとして初手二手が限界
 だろうけれども」

「相手の行動を見るんだよ。・・・そうだね、目を見るといい。
 普通は視線の先に進むから違う方角に避ける。
 それだけでもかなり致命傷を避けられるよ」

「あとは・・」
続けようとして神父は言葉を失う。
むう、と魔獣は眉根を力いっぱい寄せていた。







おそろしく久しぶりに魔獣を更新しました。いつか終わりますように(祈り)