第十話 過去に囚われる    





*

「う〜ん。うううう〜ん」
魘されるは少年。
ひどい夢でも見ているのか、目に見えてぷっくり膨れ上がったたんこぶが
痛むのか、とりあえずジェス苦しみの真っ只中に居た。
「ふふふふ〜ん♪」
その姿を異様なまでに楽しそうに眺めながら、神父が鼻歌を歌っていた。
コトン。
扉の外で物音がする。
近づいてきて、また一歩後ろに下がる気配。
「オデオン?いいよ、入っておいで?」
言いながらジェスの額に冷たいタオルを載せる。
しかしながら魔獣に動きはない。
くすっと笑い
「この子はね、案外頑丈だから平気だよ」
「・・・・」
湿ったタオルの上からジェスの額を撫でる。
「初撃ハかわされたナ・・・オ前もオデオンの攻撃を避ケる。オデオンは弱って・・ルのか」
末尾は、あまり言いたくなったのか弱かった。
「マトモにやったら、私はもちろんジェスなんか圧倒できるよ」
「・・・・」
不貞腐れているのか、と神父は見当つけた。忍び笑いを漏らさぬよう付け加える。
「君に殺す気がなかったからだよ?あ、でも一個だけ言うなら

「・・・・う」

低く呻き声がした。
「あ、起きた?」
覗き込むと、体を強張らせビクンと震えた。じっと顔を確認する。

「レンっ!」
呼ぶと神父服をぎゅっと掴み顔を埋めた。
「・・・・」
こきっ。
音を鳴らし首を捻る。
(寝ぼけてる・・・)
久々に名前を呼ばれた神父は、目を丸くして縋り付いてくる幼子のような少年を見やった。
前に見たときより、大きくなっている。そう思った。
と言っても2か月前にも顔を合わせているが、成長期の少年は見るたびに大きくなるものだと
思う。しかし
「君は変わらないね」
溜息混じりに呟いた。呆れつつも、優しい声音で。
うずくまった少年は、落ち着いてきたのか、後ろ頭を見せたまま、
ぼそぼそと口ごもりつつ答える。
「・・煩いなあ。。だって、嫌な夢を・・・」
「オきたのヵ?」
扉の外で座り込んでいたオデオンがひょっこり顔を覗かせる。
「夢じゃねぇー!!うわ!襲ってきた魔物がいるー!ひぃぃいいいいっ」
弾けるような勢いで神父の後ろに飛び込む。
「ごめんね、変な生物で。図体ばかりデカイけど、ただの小心者なんだ」
怯える赤茶の頭を引っつかみ、オデオンの前に引きずり出した。
「ジェス、落ち着け。手紙に書いただろう?オデオンだよ。」
柔和な笑顔で魔獣を指し示す。
恐る恐る、といった風情で伺いながら、ジェスは吐き捨てた。
「・・・やっぱり、やるんだ。」

もう忘れてもいいのに、そっぽを向いて聞こえないように呟く。


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