第二話  異文化コミュニケーション  


を受け容れるものなどいない。
人間は必ず襲ってきた。オデオンはそう堅く信じていた。
それは、魔境(彼女たちにとっては聖域だとしても)になど、冒険者かハンターしかこないのだから、
彼らが人間の全てに思えるのも致し方のことではある。
困惑したまま、とにかく声をあげた。
「僕トお前が?誰ガ人間などト・・」
「ふぅん。会話も全く遜色無いと言っていい程だね。少々発音に難あり、ぐらいで。素晴らしい」
ぱちぱちと手を叩いた。こちらは拒否されたことなど、微塵も気にしていない。
オデオンは全く予想していなかった事態にどう反応すべきか悩んでいる。
しかし、神父はそんな様子をも楽しげに見つめていた。
「名前は?興味無いだろうけど私はクリストファー=レン。出来ればクリスと」
「・・・・」
勝手なテンポで進む会話にもうオデオンはついていけなかったし、人とつるむつもりはないと
アピールもしたかったのか沈黙を決め込んだ。
「そんな嫌な顔しなさんなって」
にこにこと神父は続ける。嫌と言うより困っているのだが。そんなことは知ってか知らずか
神父の口はひたすらぺらぺらと回り続ける。
「もう、昼を回ってるね。お腹すかない?んーと、魔獣って何食べるのかな?」
「・・・・」
「んー、じゃ。とりあえず私と同じでいいかな。準備が出来たらほといてあげるよ」
捕縛されたまま、床に寝転がされている彼女の姿を一瞥した。
村民の集会場とは違い教会の聖堂の床には絨毯が引かれている。
それも汚れひとつない。綺麗な青い絨毯。
案外人の来ないのと神父がやたら几帳面、併せ技で作られた状態なのではあるが。
縛られることさえ抜きにすれば、さほど悪くは無いだろうと判断する。
食堂のほうへと向かおうとした。その時

ガタン

聖堂の扉が開く。
筋肉質でで長身、身なりは正直に汚い。野卑という言葉が一番似合うであろう男がそこに立っていた。
ぶらぶらと鎖やら剣やらこれ見よがしに下げている。
嘆息しながら言葉を吐いたのは神父だった。
「何か用ですか?」
それは恐ろしいほど冷たい目だった。村民に向ける穏やかなものとも、オデオンに向ける
悪戯っぽい眼差しとも違う。
ゴミでも見るように男に視線を向ける、嫌々に。
「やっぱり、それ殺さねぇみたいだな」
「なら、俺にくれよ。だいたい捕まえたのは俺だろう。賞金が出るんだよ」
「俺達じゃないんですか?お仲間はどうしたんです?」
口調だけは神父としてのものに戻す。もちろん敬意のためでも、神父としての態度の為ではない。
ただ、自分の言葉で話すよりはマシだと思ったのだろう。
「別に適当な奴見繕って組んでただけさ」
「ほとんどの方は亡くなったようですね」
にやにやと下品な笑いを浮かべ、ツカツカとオデオンに近づいた。
「これのせいで、だろ」
ブーツの先で背中を蹴飛ばす。
めりっ
「グガァッ!!」
ブーツには金属が仕込まれていたらしく、鈍い音した。


「やめなさい」
静かに言い放つとオデオンと男の間に割って入る。
そっと屈みオデオンの傷を見た。
「骨は折れていないようですね。大丈夫ですか?」
「おい!そいつは魔物だろ?」
「理由も無く乱暴にするものではないですよ」
淡々と告げる。
「アンタが言うかねェ。これ以上ダダこねるなら俺にも考えがある」
その含みのある物言いにクリスは嘆息した。
立ち上がりオデオンから離れる。
「仕方ないですね。どうぞ、ご自由にして下さい」

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