第三話 赤い悪魔   


「なんだって?」
「ですから、そんなに仰るならば、この魔獣をご自由になさってください、
 と言ったのですが。」
いともあっさり折れる。

フン
と魔獣が鼻を鳴らす。
さも当然だといわんばかりにシカト決め込んでいた。
それらを舐め回すように観察しながら大男は皮肉った。
「は、保身が大事か。いい心がけだ」
ずい、と身を寄せてくる。

--臭い。
体臭が気に障るらしくクリスは体を引き、距離を保った。
「はい、神父も人間ですからね。私は関わりません」

愛想笑いを一応作る。
がはは
下品な笑いで男は答え、横たわる魔獣、オデオンに掴みかかろうとした。
ひゅっ
風が凪ぐ音がした。
そして、魔獣が消え去る。

「な」

そう、男は今さっきまで魔獣が捕縛されていたのを見ている。
「言い忘れてました。ご自分で捕まえてくださいね」
そう言うと教会の椅子に腰をかけ、素知らぬ顔で聖書を読み始める。
オデオンの傷の様子を確認した時に神父は縄を切っておいたのだ。
「あ」

男はやっと魔獣が自分の上空にいることに気づく。
その時には、踵落としをくらい事切れていた。
頭部にはオデオンの踵からでている牙状の鋭い刃がずっぷりと刺さっている。
彼女はそれを無造作に引きぬいた。

鮮血で教会が血に染まる。
「これが、赤い悪魔たる由縁ですか」

そう、褐色の肌だけではなく、彼女が現れると大地も空も血に染まる。
それ故の名だった。


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