第四話 午後の紅茶   <オデオン視点>


ガチャガチャとたくさんの食器が擦れる音がした。
テーブルには豪華なアフターヌーンティーセット。スコーンに始まりケーキ、タルト、パイ、サンドイッチ
4段重ねになっている。

「やっぱり手で掴めるものの方がいいでしょ?」
気軽な問いかけは宙に浮かぶ。
--この男は一体何ナノだ?
悩める魔獣・オデオンは椅子につかされている。
そして眼前にはのん気そうな神父がいた。クリストファー=レンと名乗った男。
神父は焼き立てのスコーンを半分に割り、ごきげんそうにクロテッドクリームを
ぺたぺた塗っている。
芳しい香りを放つお茶を入れ終わったと思うとローストチキンの入ったサンドイッチをすすめる。
動作も口も忙しなく動く。
「食べないのかい?」
バンッ
我慢できなくなったオデオンはテーブルを叩きつけるように立ちあがった。
「-っ!!」
声にならない悲鳴。
背中に痺れる程の激痛が走る。掻き毟るように蹲った。
ああ、もうっ・・などと溜息をつきながら慌てて近づいてくる。
--惨めだ・・・
「骨が折れていないとは言え、かなりのケガだよ?」
うなだれるオデオンを持ち上げ、椅子に座らせる。
この忌々しいケガのせいでオデオンは戒めを解かれたあとでも逃げ出せなかったのだ。




時間は一日ほど遡る。
血に塗れた聖堂。そこに転がる一つの死体。
それを挟み人間と魔獣が対峙している。
--今なら、逃げられる
そう、確信すると扉に向けて飛び出した。
仰け反るような痛みが体を駆け抜ける。
--あのハンターを殺す時激しく動き過ぎたか・・。
それでも、足を引きずりながら出口へと向かう。
「お待ちなさいって。そんな状態で出ってても、魔境に着く前に討たれてしまうだろう?」
優しい声音。
それでも牛歩のごとき遅さだが、オデオンは止まらなかった。
「強情だな。仕方がない」
あっさりオデオンのところまでやってきて肩の上に担ぎ上げる。
ろくに抵抗できなかったオデオンは、簡単な治療を受けた後、教会の奥の部屋のベッドで寝かされた。
オデオンが目を覚ますとさっさと食堂に連れてこられ、現在に至るという訳である。。


★5話へ