第六話 波乱万丈    <オデオン視点>


がっくり・・・。
肩を落として、ついでに背中に暗い影を背負ってうなだれる少女、もとい魔獣の子。
--何故こんな事になっているんだ・・?
少なめな脳味噌を総動員しているようだ。うんうん唸りながら考え込んでいる。
--そうだ!傷も癒えた。はやく帰らねば!
反射的に窓を見やった。
あてがわれた、といか半強制的に担ぎ込まれた部屋は地上からかなり離れた所に位置する。
そこは教会のチャペルを調整する倉庫だった。

人目につかない所に匿う、という配慮の上で選ばれたのか、逃げられないという利点で
選ばれたのか、オデオンには判断のつかないところである。
--降りられたとして。魔境まで逃げて、帰れるのか?
どこか後ろ髪引かれるような想いが残った。

ベッドから降り立ち扉へと足を向ける。扉にコツンと頭を押しつけた。
ギィ
派手に軋んだ音を立てた割りにあっさり扉が開いた。
ぽかんと口を開いたまま、体は重力に従い倒れる。
思わず頭を丸め受身を取った。弾みでそのままゴロゴロ廊下を転がってゆく。
「・・・それは君達特有の踊りか何か?」
転がってゆく物体へ感想が述べられる。
「!!」
ポットと皿をを手に階段を登ってきた神父と目が合った。
ダンゴ虫のような格好をしたまま慌てて両足を床に叩きつけ、その反動で立ちあがる。
ぎりっと奥歯が鳴った。
--逃げてやる!
そう、決心してオデオンは神父に向かって駆け出した。
「ん、元気に動けるみたいだね。じゃあ、おやつは下で食べようか〜」
そのセリフに力が抜けたのか、またがっくりとうなだれた。
動きは止められたが、沸き上がった感情の行き場をぶつけるように食って掛かった。
「何故鍵ヲかけナイ!?逃げてモいいのカ!?そもそも取引ハしなくてイイのカ!?」
とりあえず捲くし立ててみる。
「あ、取引・・」
ぽんっと手を打つ手はおやつでふさがっていたのだが、そんな感じで。
--忘れていたのか・・・
さらにがっくりとなる。
神父は几帳面な主婦のような生活を送っている割に色々な事を気にしない性分であるからして
「その部屋最初から鍵かかんないの。ま、話は下でね」
にっこりと笑顔で答え、顎で階段へと促す。
階段を降りながら、何故か絶対に逃げられない予感がしていた。
とんとんとん・・
逆らっても無駄な気力を消耗するので素直に降りてゆく。


--ここは・・。
階段を降りきったところでオデオンの足はぴたりと止まった。
その様子に神父が声をかける。
「綺麗に片付いていると思わない?掃除は得意なんだ」
そこは聖堂だった、とても清閑としている。最初にオデオンが連れてこられた時と
何の変化も感じ取れない。
こころなしか均等に並べられた長椅子の一つにに染みがついて見えるかという程度だ。
「死体ハ・・?」
ぽつりとつぶやく。
「ちゃんと埋葬済み。教会の裏は共同墓地だからね、一つや二つ増えても誰も気にしない」
内容とは裏腹に声は諭すように柔らかい。
「そんな事はどうでもいいよ。パイが冷めちゃう、ね?」



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