第七話 来訪者の予感   




ズゴッ・・ズゴッ・・
音だけで重いですよと言わんばかりである。
でっかい箱を紐で括りつけ引きずる男が一人。
「あの腐れ神父め・・、はぁ」
空に向かって悪態をつきながら、また荷物を引きずっていく。
遠くに見える教会。
それに向かってえんえんと続く道。
「ちっくしょー」
悪態は一定間隔でつかれ、また教会は遠く、荷物は重かった。


その教会、一階へと場所は戻る。
聖堂の奥の食堂の中。
オデオンはまたしても思考の渦に巻き込まれていた。

--どこから一体出てくるのだろう・・。
魔物達の聖域とは言え、最近のラルカザールは食料に乏しい。
最近はひっきりなしに人が攻めてくるので土地は荒れがちなっているせいだろう。
目の前にずらずらと並べられる豊富な食料を前にオデオンの思案は深まる。
ここへ連れてこられてからひっきりなしに食べ物を与えられている理由も分からない。
--肥えさせる事に意味でもあるのか?
眉間に皺を寄せつつも、まだほんのりと湯気を出しているかぼちゃのパイを口へと運ぶ。
「どう?」
甘い
こんなに味のするものは正直オデオンは食べたことはない。
返事のかわりに首を縦に振る。
「良かった」
本当に嬉しそうな表情で神父は答えた。
--やはり肥やしたいのか
神父の表情に自分の考えの確信をみた。尋ねてみる。
「お前はこのオデオンを食らう気デあろう!?」
「・・・オデオン?それが名前?」
はたっと止まる。そういえば名を聞かれたが名乗っていない。
「そう、いい名前だ。・・・しかし、ぷっ・・食べるか、成る程ね」
笑いを堪えながら頷く神父に不愉快になりつつもオデオンは己の確信が当たったと思った。
--やはり、食われるのか。人間は鳥や豚を肥やしては食うからな。不思議はあるまい。
ツボからやっと脱出できたのか神父は涙目の顔を上げる。
「あー、違う。君を食料にするつもりはないよ」
微妙ではあるが意図的に言い換えてオデオンの確信を否定する。
「そうナノか・・?」
半信半疑な眼差しを向ける。とりあえず、にっこりと笑顔で頷く神父。
「本当に大丈夫だから。じゃあ、取引の話でもしようか」

「忘れてた訳ではないんだけれど」
と一応の言い訳か胡散臭い笑顔を添えて断る神父。
「どれを頼もうかと思ってね」
「たくさんアルのカ?」
「いや、3つ。でも今は2つ」
「???」
疑問符が浮かんでいるオデオンにいつものように笑顔で答える。
「そのあたりはこちらの事情ってやつでね。で、結局は」
「泥棒の手伝いをして欲しい」
「は?」
別に泥棒と言う単語が理解できなかった訳ではないだろうが、
その言葉はオデオンの理解の範疇を超えていた。
眉根をひそめながら問う。
「神父とイうのハ・・・物を盗んだりするのが稼業カ?」
「まぁ、そーいう人もいるかもしれないって事で」
「????」
明らかに増えていく疑問符はとりあえず無視して神父は続けた。
「どうしても欲しい物がある。それを私が手に入れる事は君達にも利があるんだ」
暫くオデオンは考え込んでいたが、ぴたりとそれをやめた。
「もうイイッ。ともかく泥棒を手伝えバいいのダな!?」
当然肯定の言葉がくると思っていたが、降ってきたのは沈黙だった。

静かだった。本来教会とはそういうものであるが。

「違ウのカ?」
沈黙に耐えられなかったのはオデオン、再度答えを促す。
首を傾げるオデオンにいくぶん落ち込んだような顔で答えた。
「・・・・・そのまま逃げてもいいんだ。ケガも治ったろう?君なら
 無傷でとは言えないが、逃げられないことはないかもしれない


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