第九話 枯渇と再生。そして危機   




「・・・み、・・」
一言だけ漏らすと後が続かないとでも言うように口をぱくぱく動かし、男は
もんどりうって倒れた。
「はい、お水。あらら、大丈夫かい?」
ぽかんと眺めるオデオンの横を通り過ぎ、やはりいつものように
どこからともなく(オデオンの動体視力をもっても不可視であった)水を取り出した。
倒れた男を頭を持ち上げ、アルミカップに入った水を差し出す。
「・・・ん、くぐ・・・ぷはぁっ!!」
一気に水を飲み干すと、大きな溜息をつく。
「ほら、ジェス。そんなとこに寝転がるからゴミまみれだよ」
ジェスと呼ばれた男、よくよく見れば図体はでかいのだが若い。神父が赤茶けた前髪のゴミを払うと、
まだあどけなさを残した目がのぞいた。
「おおおお、お前のせいだろっ!クソ神父!橋が落ちてるなんて聞いてねぇぞ!!!」
「あ」
ぴたり。
教会内の空気が水を打つように静まり返った。
そして、瞬時に崩れ去る。
「ごっめーーん!変なのが来てさ〜うざかったから、もう誰も来れないように
 橋落としておいたんだったよ〜」
てへっと最後に付け加える。余談であるがこの男、見た目は二十歳前後だが実年齢29歳の
社会的身分・国教である女神フォルトナを奉る司祭であったりする。
それを一旦睨み付け、がっくりと肩をおとしてうめく。
「わかった・・・とにかく、その気持ち悪い喋り方やめてくれ。。。って、っ!!!」
瞬間、ジェスは飛びのいた。
ジィンッ!!
金属音に似た硬質の音がする。
飛び出したのはオデオンだった。音の根源はオデオンの放った蹴りをアルミカップで
受けたためである。素手で受ければ、必ず腕はフッ飛んでいたであろう鋭い牙が
カップを粉々に砕いていた。
「ちょ、わぁあ!!」
舌打ちし、オデオンは距離を詰めた。
「オデオン!!」
ジェスは後方に思い切り飛びのく。 
流石に反撃は全く出来なかったが、かなり距離をとったおかげでなんとか致命傷に
ならないように攻撃を避ける。
「待て、待て、待て!!!!そいつは君の敵じゃない!」
「え?」
言葉に動きが躊躇した。が
目にも留まらぬ速さで距離を詰め、拳を繰り出したオデオンの動きは慣性の法則に則る。
ばきっ!!!!!
力は緩めたものの勢いは止まらず、、、ジェスの頬にクリーンヒット。
再度、ジェスはもんどりうって倒れた。

「あーあ・・・」

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