「おい、干し柿は作れるか?」
干し柿・・うまそうだが、作った事はない。ふるふると首を振る。
「お前、実は甘やかされてたんじゃないのか」
はぁっと格子の中で化け物は盛大に溜息をつく。
そう、この化け物はここから出られないんだそうだ。
封印されてるんだとか?
何で封印されているのか聞いたら、喧嘩したからと言っていた。
喧嘩なら、両方悪いんじゃないのか。
なんで化け物だけ閉じ込められるんだか。
よく分からん。
「・・っ!おい!聞いてるのかっ。もう説明せんぞ」
!!
まずい。干し柿の作り方を聞き損ねた。
これがないと冬は困る、と思う。
ああ、もうすぐ冬だ。
冬まで生きれて良かった。あれは春の終わりだったから
もう半年が過ぎた。
びっくりだ。ほんとうに、野垂れ死ぬしかないと思っていたから。
*
泣いて
泣いて
泣き疲れて
それでも、まだ涙が出るのでしくしく泣いた。
「お前、一人なのか?」
ずっと化け物は黙ってて、一言だけぽつんと言った。
喋ろうと思ったけれど、喉が張り付いて、しゃっくりが止まらなくて
口も動かなくて、肩だけが上がったり、下がったりで
仕方ないから、首だけ縦に振った。
「そうか」
一度動き出したら止まらなくって
ずっと、首を振ってたら
「わかったよ」
って言われて
ますます涙が出た。このまま、体中の水が目から溢れて、
干からびちゃうんじゃないかと思う。それもいい。
「・・・おい、さくらんぼ食うか?」
私は干からびて死ぬはずだったのに
格子の隙間から放り投げられたたくさんのさくらんぼを全部食ってしまった。
涙は止まらないけど、さくらんぼと聞いて腹の音も止まらなくなって、それを聞いた化け物は大笑いした。
その後、「お供え物」らしい稲荷寿司も食わされて、こんなに腹がいっぱいになったのは
初めてで、気づいたらそのまま祠の中でぐうぐう眠ってた。
もう、眠る事ないと思っていた。
爺ちゃんが死んだ晩、死んだの分かってたくせに、死なないでと祈りながら
過ごした晩は、ただ怖くて眠れなかっただけだ。
もう、私は一生眠れないんだと、そう思ったのに
こんなに簡単に眠れてしまった。
眠りは柔らかい毛布のようにくるりと私を包む。