化け狐と浮浪児のお話(仮)

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   B続・Necessity has no law 






祠の中には朝陽が差し込んでいた。
薄暗い闇の中に光線がいくつか放たれて、空気が意外と澄んでいることが分かる。

「いいな、お前は。真っ当な愛され方をして」
ぼそっと化け物が呟く。
「・・・まっとう?」
「いや、そこは気にするな」
コホン、と咳払いをしてる。何のことだろう。
ふぅん、と曖昧に頷いてから、もう一つ気になったことを口にした。
「なあ、誰にも愛されてないの?」
格子の奥では、また苦笑が漏れ、何も無い虚空を見上げた。
「・・・あー、まあ、今はな」
じゃあ、今は?

「私といっしょだ!!」
跳ね起きて、格子を掴む。
思いっきり近づいた反動で頭が格子にぶつかった。
「いだっ」
ぴかっ

「光った・・?」
びっくりした。痛くて目を閉じてたから、よく分からなかったけれど
格子が光った気がする。
なんだか、真ん中の私が頭をぶつけた格子は少しだけ輝きが残っている。
「今の何・・?」
覗くと化け物はなんだか気まずそうな顔をしていた。

「ん、お前、デコの怪我また開いてるぞ」
「そうじゃなくて、今のっ。妖術か?」
はぐらかそうとされても、駄目。何だ、今の?
「ねぇ何?何っ?」
「くそ。ちげーよ・・」
・・・・
・・・・
「今のは開封の兆しだ」
観念して溜息混じりに答える。
「かいふう?」
「そっ、俺の封印が解け掛けてきてる兆し」
「ふーいん?」
「あ?見て分かるだろ?閉じ込められてるんだよ!」
珍しく口調が荒い。
「あ、そーなんだ。悪いことしたの?」
「いや、別に。何だ、喧嘩だ、痴話喧嘩の成れの果てがこれじゃあ悲惨もいいところだけどな」
ぶつぶつと呟く、思い出したくないのだろうか、なんだか化け物の白い顔が赤くなっている気がする。
「相手は?閉じ込められてないの?」
「閉じ込めた張本人だからな」
「喧嘩で?ひどいな、それは」
喧嘩は両成敗だと爺ちゃんが言ってた。戦もそうなんだ、と言ってた、
だから、お前は相手を恨んじゃ駄目だ、お前の父ちゃんが死んだのも仕方ないことなんだ
と言っていた。
爺ちゃんが言うからにはそうなんだと私は信じてる。

「だろう?なっ、なっ。おかしいよな?もう百年だぜ」
いつになく熱く化け物は言った。
「ええっ百年!!うん!それおかしいよ。そいつはどうしてるの?」
「ああ・・もうとうに死んじまったさ」
「ふーん。そっか」
それじゃあ、仕方ないなと思う。故人は責め様が無い。
それに化け物がちょっと寂しそうに言ったので、きっと化け物は
もうその人(?なのか化け物同士なのか?)を許してるんだろう。
百年も閉じ込められてるのに。
ちょっと凄いな。
「あんたいい化け物だなあ・・・」
「なんのことだ」
ふん、と鼻をならす。
ふさふさの耳がぴくりと動いた様子を見て、化け物と呼んでるのに全然化け物に見えない妖怪を綺麗だなあと思う。
知ってか、知らずか化け物はそ知らぬ風を装っている。

ふと、目の前の格子に目をやる。

完全に光が消えた格子を触ってみる。
相変わらず硬い。何で出来ているのだろう?
「なあ、開封してるのに何で開かないの?」
私の質問に化け物は得意げに答えた。
「ああ、こりゃーねちっこーい、呪いみたいな封印でな。一回くらいじゃ解けないんだ」
「十回?百回くらい?」
指で十を描きながら聞くと、化け物はひらひらと左右に手を振った。
「もっとだ」

どのくらいなんだろう?
「ああっ!」
「えっ」
叫んだ私の声に化け物がびくっとした。なんだ案外小心者だな。
でも、これでさくらんぼとかのお礼ができるかもしれない。
もの凄い名案だ!
「いいよ。私やってあげるよ」
「いや、いい」
速攻で断られる。
「なんで!?」
「あーだって、とにかく長いから無理だろ」
意外にも化け物は拒否の姿勢を貫く。
でも、私も諦めずに矢継ぎ早に質問を繰り返す。
「どれくらい?」
「3年。それも毎日かかさず、今みたいに血をこの格子にくっ付けるんだよ」



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