化け狐と浮浪児のお話(仮)

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   FRepentance comes too late



「いだっ・・」
腹が灼けるように熱い。
脇腹を掠めた矢は、刺さったままだ。
怖くて触れられないし、見ることも出来ない。

「・・いたぃ、いたい、うぅ、、」

痛い、痛い、痛い

(でも、帰らなきゃ、はやく、夜が明けちゃう。)

目が醒めたら、既に真夜中だった。いつのまにか意識を失ってしまっていたらしい。
もう月が傾いている。
さあっと血の気が引く。まずい。一日でも怠れば、封印は振り出しに戻ってしまうのに。
(なんで朝、やってこなかったんだろう・・)
奥歯をかみ締めると血の味がした。
無理に立ち上がり進まない足を前に押し出す。
倒れそうになるのを堪えてまた一歩進む。
(化け物が、化け物と外に出て・・)
一歩、歩くたび鋭い痛みが苛む。

痛い、痛い

動いたので、固まった血が落ちて、ぼたぼたと赤い沁みを作る。
ああ、勿体無い。こんなに血を流して。
これから先ずっと、あの格子に捧げなくてならないのに。
こんなところで無駄遣いするのはとても惜しい。


イタイ イタイ イタイ イタイ

血は流れっぱなしで止まらない。
私が止まらないから、きっと止まらない。
「うぐ、ああ、あ、あああああああ、うぅああ」
声なのか、それとも唸っているのか。
もう死んでるのかもしれない。


「どうしよう・・」
声もぶるぶる震えて、足がますます縺れる。
 
 ごめん、間に合わなかったら
 私に餌を与え続けてくれた半年が、無駄になる。

 役立たずでごめん。
 半年前に死んでれば、化け物を煩わせることもなかったのに。
 ごめん、鬱陶しかったよな。
 だから、せめて封印解いてやれば近くにいてもいいかもって。
 封印された可哀相な化け物なら、役に立てるのかもしれないって。

 何にも出来ない。出来てない。いっぱい貰っておいてこのザマか。
なかなか進まない体は無駄で邪魔でゴミのよう。


 爺ちゃんが病気のとき、人買いの男がきた。
 そいつは寝たきりだったはずの爺ちゃんが蹴っ飛ばして追い出して
 さっさと出てったけど
 ほんとは、私が呼び止めたから、家に入ってきたんだ。

 家の前を様子見するように覗いていた。
 嫌な目だった。気持ちが悪い。でも、それよりも
 「私を売れば薬が買えるか?」
 聞いたら
 「ああ、買える。爺さんは元気になるぜ」
 と笑いながらいったから。
 「私を買ってくれ」
 頼んだの。

 でも爺ちゃんは怒って、そいつを蹴っ飛ばし、よけい具合悪くなって。
 私は馬鹿なことをしてしまった。
 やっぱり私はゴミだった。 

封印された化け物とよりずっと可哀相なのは私だ。
誰の役にも立てないゴミ。どうにかして役に立ちたい。

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い

もうすぐ、着くのに。
あとちょっと。
薄暗くて、ちょっと湿っぽい祠に化け物が居るんだ。
早く、出してやらなきゃ駄目なのに。
そしたら、二人で都に行くんだ。そしたら、きっと幸せだ。
化け物は面倒臭がるかもしれないけど。
あいつ、何なら楽しいのかなあ。

ぼんやりする頭とは裏腹に感覚が鋭くなる体を引き摺って
化け物の森にようやく着いた。
山の端っこはもう、藍色から青に近づいている。

ハヤク

「−っ」
ひやりとする浮遊感のあと衝撃が走る。
足を滑らせて、祠の中へと転がり落ちる。ちょうど良かった。
もう足が進まなかったんだ。

「・・!!おい、お前っ・・」
あ、格子の中で化け物がびっくりしてる。
白い顔が顔真っ青だ。
「大丈夫かっ、クソっ」
がしゃっ
格子に掴みかかる。

ごめん、まだ封印が解けてないよ。もうちょっと待って。

あーーーうれしーーーー
私心配されてるじゃん。
「おいっ、聞こえてるのか、その矢どうしたっ」
うん。説明すると長くなるんだよね。
それより
「へへっ、なぁ、名前・・さいごに教えて」

呼びたい。駄目かな?

「・・・夜凪だ」

「うなぎぃ?」
美味そうな名前だなあ。
うなぎなんて食ったことないや。
あれ、舌打ちしてる。
「−やなぎだって言ってるだろ!」
やなぎ
やなぎっていうんだ。木の柳かな?どういう字だろ・・?
「やなぎー、・・・・はらがいたいよぉ」
「おいっ、千寿っ」

名前、覚えてくれてたんだ。
何回教えても、一度も呼んでくれなかったのに。
どうしよう、幸せだ。



・・・・ああ、とても眠たい。



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